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2009年6月23日火曜日

こだわり写真機 ー 時空旅行の必須アイテム

カメラ、というより写真機は、私の時空旅行の必須アイテム。
それだけに、写真機にはこだわりがある。

写真機という以上、金属製の筐体でレンズも金属鏡胴。箱の中では精密な歯車とバネと軸が寸分違わぬロジカルでシーケンシャルな動きをする、そのようなメカニカルな精密光学器械の事をさしている。
となると、デジタルでなくて銀塩フィルム。オートフォーカス(AF)やオートエクスポージャー(AE)などの電子的仕掛け、すなわち電池がなくなると動かなくなるようなシロモノはついていない。定期的な整備さえ施してやれば半永久的に機能するモノを写真機と言う。

ところが最近、私のこの信念が危機に直面している。
銀塩金属カメラの理想型はライカM3やニコンFだが、さすがにこの時代にコレクションとしての価値は別として、残念ながら実用的には物足りなくなってしまう。ついに数年前からデジタルカメラを導入。
本当は、私が生業としているIT(最近はICTともいう)業界のバーチャルな世界にやや辟易して、永遠不滅の存在とリアルな手応えに心の安らぎを得る為にクラシックな銀塩金属写真機の世界に足を踏み入れたのだが。

一旦デジタルに切り替えると、たちまち写真機がカメラにかわり、フィルムを捨て、撮影、後処理環境が激変してしまった。恐ろしい魔物の世界に足を踏み入れてしまった。デジタルカメラと私の仕事道具であるパソコンやネット環境とのマッチングがまた絶妙。たちまち、増設ハードディスクや、フォトプリンター、フォトショップ、さらにはフィルム時代の資産をデジタル化する為のスキャナーまで装備するはめになった。そしてさらにネットのクラウドの中に私のフォトライブラリーが.....

全く我ながら節操のない、自称「写真機家」にあきれている。しかし、いかに節操を失ったとはいえ、カメラに関するこだわりはまだ多少は生きている。そういう意味では、今のデジタルカメラ製品群の中で、実用品としてはなかなか便利であるが、恋するほど魅力的な製品は出会っていない。たいていがプラスチックと電子回路のかたまりと化した家電製品になってしまった。壊れると二度と修理のきかない消耗品だ。、ましていわんやケイタイカメラなんぞカメラの部類に入れたくないくらいだ。かつての銀塩カメラのような成熟した精密光学製品ではないので、実用を超えた趣味の領域に属するようなこだわりを持ったものがまだ出現してない。もう少し時間を要するのだろう。

と思っていたら、最近うれしいニュースが飛び込んできた。オリンパスが7月3日に新しいマイクロフォーサーズフォーマットの新しいデジタルカメラを出す、というのだ。オリンパス・ペンE-P1だ。これはなんとあの一世を風靡したオリンパス・ペンのデジタル版だ。その外観は往年のペンFのイメージを彷彿とさせるもので、外装は上下がアルミダイキャスト、側面がステンレスというかなり金属「度」の高いカメラである。レンズ交換式で、重い一眼レフは苦手。かといって、お手軽コンデジでは満足出来ない、という層にも受けそうである。

オリンパス・ペンは思い出のカメラである。中学生の時、修学旅行用に父が初めて買ってくれたカメラが初代オリンパス・ペン。ハーフサイズなのでフィルムが倍使えるのが当時は感激であった。金属のひんやりした感触とソフトレザーケースの革のにおいが今も記憶の中に生きている。その後、あのユニークなハーフサイズ一眼レフシステムカメラ、オリンパス・ペンFが世に出た。 欲しかったが買えなかった。

たいがい今の団塊世代は、こうした幼少期、青年期のカメラに対する思いが、少し経済的に余裕ができた今、時空を超えて花開き、銀座の中古カメラ屋や松屋の中古カメラ市などのイベントに自らを駆り立てているのだ。当時は話聞くだけの高嶺の花、我がものになるなどとは考えもしなかったライカですらなんとか買える値段になっているのだから。

しかし、時代は明らかにデジタルへ。プロカメラマンは一部のジャンルをのぞいて、報道系を中心にデジタルにシフトしてしまった。ライカのようにレンジファインダー、フィルムカメラにこだわった(というより日本製品においてかれてその領域に生きる選択を取らざるを得なかった)ドイツの老舗ですらデジタルM8を出して、ライカファンのつなぎ止めを図っている。もっとも、このM8だが、日本製のデジタルカメラに対抗出来るスペックに仕上がっているとはとても思えないが。ただ価格だけはライカプライスだ。

デジタルカメラは、そのボディーやレンズなどのいわばハードウエアーだけでその性能が語られる事はない。じつは画像造りに欠かせないカラーマネジメントなどを司る画像エンジン、すなわち、デジカメを機能させるソフトが他社製品との差異化の重要ポイントなのだから。デジカメはコンピュータなのだ。この点がフィルムカメラと最も異なる点だ。当然フィルムカメラ時代には、写真家が期待する画造りの全てをカメラメーカだけでは担えないわけで、その多くをフィルムメーカの技術と経験、感性に依存していた。デジカメメーカ各社は製造初期には、この元々フィルムメーカーが得意とした領域の技術ノウハウをいかに獲得するかが大変な挑戦だったという。カメラメーカーの製造業者にパラダイムシフトが起こったのだ。精密機械と光学技術の専門家集団に依存する事業が、コンピュータ、ソフトウエアーエンジニア集団、さらには色味や画像造りといった感性に依存するノウハウ、ネットの最新技術を駆使する事業へと転換しているのだ。このようなパラダイムシフト、それに伴うビジネスモデルイノベーションを迫られる事態はカメラ業界だけではなく、あらゆる業界に起こっている事ではあるが。

ともあれ、時空トラベラーとしては、実用性も大事だが、感性を刺激してくれる道具が欲しい。だんだんデジカメも成熟商品になりつつあるのだろうか、デジタルオリンパス・ペンのようなモノとしてのこだわりを持った製品がドンドン出てくれれば、金属カメラ離れを余儀なくされ、節操を失った事への後悔にさいなまれる「写真機家」の心の不安定さを救ってくれるのではないかと期待している。

(写真はオリンパスペンFと7月3日に発売のデジタル・オリンパスペンE-P1。オリンパスのウエッブサイトからお借りした)Penf_01waWps1024x768