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2015年3月25日水曜日

DUMBO Brooklyn ニューヨーク歴史地区 〜マンハッタン橋の下の物語〜

 ダンボ(DUMBO)といってもディズニー映画の耳の大きな子象の話ではない。ニューヨークブルックリンにある地区のことだ。ここはイーストリバーを隔てて対岸にマンハッタンの高層ビル群を望む景色の良いところ。最近は観光スポットとしても脚光を浴び始めている。しかし、かつてはマンハッタンブリッジの大きな橋脚の袂に広がる工場や倉庫がひしめくモノ造りの町であった。年配のニューヨーカーにとっては、地元ブランドのチョコレート工場やアイスクリーム工場が懐かしいところだとか。ご多分に洩れず産業構造の変遷により60年代以降衰退し、一時は廃墟同然の不気味で治安もよろしくない町へと変貌していった。1970年頃から、町の再開発を機に若いアーチストやアントルプルナーたちが移り住み始めた。古い倉庫や、工場跡がロフトやギャラリー、ビジネスインキュベーションの場として活用され始め、いまやトレンディーな街に変身を遂げつつある。地価・レントが高騰するVillageやSOHOを避けての移動だ。市当局はここを歴史地区の一つに指定している。

 もともとはマンハッタンのSOHOあたりもアイアンキャストの階段や外装の建物が並ぶ倉庫街であったが、いまやその独特の景観がアルチザンな街の顔になり、さらにはアーティストが活動拠点を構える憧れの地になっている。地価も高騰し、成功したアーティストやその雰囲気に魅せられた一部の金持ち(しばしばそうしたアート活動のパトロンである)しか住めない地区になってしまった。こうして若いアーティスト達はaffordableな新しい拠点を求めて、ブルックリンだけでなく、Meat Packing District:ミートパッキングディストリクトやHigh Line:ハイライン、あるいはハドソン河対岸のニュージャージーへと移り住んでゆく。最近はハーレムも新しい文化の発信地区に変貌してきている。どの地区もマンハッタン中心部への交通も便利で、若いサラリーマンたちにも人気のロケーションになっているという。

 DUMBOとはDown Under Manhattan Bridge Overpassの略で、「ダンボの物語」は文字通り「橋の下の物語」である。ニューヨーク最古のサスペンションブリッジ、ブルックリンブリッジもここに美しい姿を誇っている。3月初め、ちょうど訪れた時は雪景色を背景に、クリアーな青空。マンハッタンブリッジが夕日を正面に受けて輝き、対照的にブルックリンブリッジが夕日の残照にシルエットを落とすという、誠に美しい光景が出現していた。マンハッタンでは目にすることのできないもう一つのニューヨークの景観である。1870年以前は対岸からは船で渡るしかなかった。ここにFulton Landing:フルトン渡船場があったところからFultonとも呼ばれる。マンハッタンの素晴らしい夜景が楽しめる観光客に人気のRiver Cafeはここにある。


 こうしたスラム化した町が再び脚光をあびる町に移り変わってゆく様をgentrificationと呼んでいる。日本語では「都市再生」と訳しているようだが、日本の都市で行われているように、古い建築物を壊して、高層ビルに建て替える「都市再生」とは違う。古い建築物や町の景観を最大限生かしつつその中身を変えてゆく。それを、ハコモノではなくライフスタイルを提案する、いわば長いサイクルでの衰退と再生を繰り返す不断のevolutionと理解するならば、むしろ「町の輪廻転生」と言ったほうがいいように思う。都市はその中身を変えながら生き続ける。

 日本の地方の都市で、若者が出て行って年寄りばかりになってしまった古い町家、古民家を破壊してマンションにするのはgentrificationではない。古い町家や古民家での暮らしを新しいライフスタイルとすることだ。もっともマネーの論理がはっきりと働くニューヨークにおいては、そうしたgentrificationのせいで、街が賑わいを取り戻し、裕福な新住民が移り住み、地価が上がり、レントが上がる。それはとりもなおさず、安い家賃で暮らしてきた低所得の旧住民は出ていくことを余儀なくされるということを意味している。光と影を合わせて移ろいゆく、それが町の輪廻転生のもう一つの側面だ。


マンハッタンブリッジの橋脚が町のシンボル

石畳の街

イーストリバーままだシャーベット状だ。
春はまだ遠い

夕日を受けて地下鉄が行く

ブルックリンブリッジの夕景

ダウンタウンの夕景
新装なったフリーダムタワーも見える

ストリートペインティングもただの落書きではない
ここでは立派なアート作品



マンハッタンブリッジを下から覗く
橋脚の下はアートスペースやフードコートになる


DUMBOの街角
この橋はなんて巨大なんだ!

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