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2016年5月26日木曜日

Leica Vario Elmarit SL Zoom 24-90mm f.2.8-4 ASPHという怪物 まさかの「故障者リスト」入り!



 時空トラベラー  The Time Traveler's Photo Essay : Leica Vario Elmarit SL Zoom 24-90mm f.2.8-4 ASPHとい...: レンズを着けるとボディーが小さく見える  ライカSLがリリースされてから3ヶ月が経過した。予約入荷待ち状態が解消されようやく市場にブツが流通し始めたようだ。もちろん話題の中心はこのコンクリートブロックのようなミラーレスのSLボディーなのだが、私にとってはレンズが注目だ...

と、大いなる期待を担って我が撮影機材戦列に加わったのだが、このライカ入魂のズーム、Vario ElmaritSL24-90 ASPH、購入からわずか半年でまさかの「故障者リスト」入り。高い投資となった。鳴り物入りで大リーグに移籍したBoston Red SoxのM坂みたいなもんだ。

 それは伊豆下田の黒船祭のパレード撮影中に起こった。突然ズームリングが35mmと50mmの間でロックされ、動かなくなってしまった。時々動き90mmまで回るが、なにかゴリゴリとした違和感を感じ、また動かなくなってしまう。やむなく撮影中止。持ってきたサブカメラ(ちなみにライカではない)でなんとか仕事をこなした。信じられない!これまでメインとして使い続けていたNikonSLRでは全く経験なし。他社のどんなエントリーレベルのズームでも、これまで経験のない故障だ。

 東京へ戻り、銀座のライカジャパンに持ち込む。サービス担当者もびっくりしていた。しかし、このSLの場合、日本での修理はできないのでドイツ送りだと。しかも3ヶ月はかかるとのこと!信じられない事態!仮にドイツに送るにしてもなんで3ヶ月もかかるのか。日独間はオーバーナイトパックで一晩で届くはずだ。これじゃ仕事にならん。代替機の用意もない。Nikonならここで、ちょっとお待ちください、と言って点検。簡単な修理ならその場でやってくれる。その場で直らないとしても一週間ほどで完了連絡が来る。

 毎度のことで、文句を書き出したらキリがなくて、そんなこと書き連ねていることで自己嫌悪感に苛まれる。だったらライカ止めたらどうだ、といつも思う。これまでもLeica M8, 9, Type240のソフトウェアーバグ(SDカードが読めない、画像番号が勝手にリセットされ、SDカードのフォーマットをやり直さねばならない!再生画像がモザイクになる等々)や、電源回路の不具合(スイッチオフにならない等)には悩まされてきたし、或る日突然M9のCCDセンサーが壊れてしまったこともある。これもドイツ送り。Type240も初期ロット製品にアイレットが抜ける恐れありとして、リコールがかかりこれもドイツ送り。大抵のことでは驚かなくなった。しかし、ようやく完成度の高いSLに出会い喜んでいたら、ズームレンズのリングが回らない、という機械的な故障。しかもその修理が日本国内で出来ないなんて。ドイツ製品の堅牢さ、信頼感が、こんな形で崩れ去るとは... とにかくライカ製品は「故障者リスト」入りしている時間が長すぎて仕事していない。これじゃあ高い契約金でリクルートしてきたのにコストパフォーマンスの悪さは言うまでもないだろう。

 やはり写真を生業とするプロはdependable and durable Nikonをメインにすべきだと反省する。こうしていつも比較するのは気の毒かもしれないが、Nikon はかなり過酷な使用にも耐える堅牢さを備えている。以前、山でレンズを岩にぶつけてズームリングが外れてしまった時(この時はお粗末な作りだと嘆いたものだが)も、ズームそのものはきちんと動いて仕事してくれた。事後に銀座のNikonサービスで点検してもらったが、光軸のズレやピントは全く問題なしだった。撮影の現場でカメラが機能しなくなって、撮影を中止せざるを得なくなったことは一度もない。どんな状況でもキチンとプロの要求に応える。これが仕事カメラだ。ライカもNやCのプロラインアップ、サービスサポートに対抗するなら是非頑張って欲しい。

 Leica SLは最新のファームウェアーアップで使い勝手は改善した(露出補正がダイレクトにできるようになったことや、ピント確認がジョイスティック一押しでできるようななったこと等)が、今回のことで、アフターケアーを含め仕事カメラとしては信頼感に課題を残すことを証明してしまった。少なくともリスキーな機材という印象を植え付けてしまった。やはり趣味カメラなのだろう。趣味でも、撮影途中で度々中断されると、それだけで撮影意欲を大きく削がれてしまう。それでもライカに拘るのはライカ病患者だからだ。少なくとも、新製品の初期ロットにはバグや不具合が取れないまま出荷された個体があることを知っている必要がある。

 さて3ヶ月後、夏の盛りを過ぎて秋風が吹き始める頃、ドイツから戻ってくるであろう君を待つとしよう。しかし、君の先発投手ポジションがそれまで空いているかは保証の限りではないが。この世界もスピードが命、競争が厳しいのだから。

 ちなみにライカジャパンのスタッフは、性能やサービスに敏感でディマンディングな日本の顧客と、ドイツ流の合理主義(よく言えば職人気質)との間で、板挟みに合い苦労しているのだろう。妙に自信たっぷりなLica社のProduct Out姿勢が、User Orientedを求める日本の顧客(神様)に受け入れられるのか。サービススタッフもおそらくは日本の他社メーカー出身の転職組みが多いのだろうから、こんな基本的な不具合や、サービス対応プロトコルの融通のなさには、フラストレーションを感じているのだろう。顧客から面と向かって文句言われるのは彼らだから。ライカだから許せ、とはいかない。

 かつてアメリカの会社を買収し、米国で事業展開に苦労した経験に照らすと、日本流の顧客志向、サービス品質管理を徹底させるのがいかに高いハードルであるかを身にしみているつもりだ。日系企業顧客から求められるSLA(Service Level Agreement)は米国のスタンダードなSLAよりはるかに厳しい要求条件を満たさなければならない。現地スタッフはこれじゃコスト的にやってられない、と最初は嘆いていたが、それが信頼関係維持(複数年度契約へつながる)のためのコストであること、さらにその信頼感で顧客を増やすことにより一顧客あたりコストが下がることをやがてわかるようになった。ドイツ本社の経営思想、サービス方針に従うことを期待されている日本法人では立場が逆かもしれない。しかし、日本流、米国流、ドイツ流という世界に冠たる三つの経営流儀のハイブリッドを目指して、ギャップを乗り越え新しい「グローバルスタンダード」を作り出して行く時代なのだから、日本の顧客の要求をしっかりドイツ本国に伝えてほしい。ライカ本社の社長はソニーの役員出身者だと聞く。素晴らしい描写性能の(とても高価な)ズームレンズを所有していながら使えない悔しさを知って欲しいものだ。

(2016年7月16日 記述)
 本日ライカショップ銀座より修理完了、ドイツから戻ってきたとの電話連絡あり。当初8月24日の引渡し予定と説明されていたが、想定より1ヶ月ほど早かった。修理票には特に動作不良の原因の説明は記されていない。ズーム機構の修理/調整をした、との短い説明のみ。銀座店のサービススタッフに聞いてもわからないという。なんかプロフェッショナルじゃないな。「また何かありましたらいつでもご連絡ください」と丁寧なスタッフ。「二度とこんなことがありませんように」と心の中で念じつつショップを出る。早速銀座で試写してみたが、特に不具合は無くなっていた。当然だろうが... しかしあの不具合の原因がわからないとなんとなく心もとない。