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2017年12月21日木曜日

石光寺の寒牡丹 〜冬枯れの當麻の里に牡丹を愛でる〜


石光寺の寒牡丹


 奈良大和路散策は私の写真旅、時空旅の定番だ。このブログの投稿件数でも「奈良大和路散策」がダントツに多い。大阪時代から時間さえあればカメラ担いでせっせと回っている。その中でも、一番心が落ち着いて好きなのは當麻の里の散策だ。季節を問わず穏やかで美しい風景が楽しめるのである。由緒のある古寺とそれを取り巻くように佇む里。飛鳥古京から難波に抜ける竹内街道沿いの古代の面影を残す静かな仏の里だ。そしてここには大和路を象徴する双峰山がそびえている。大和の東の聖なる山が三輪山なら、西の聖なる山は二上山だ。ちょうど東西軸上にある聖山。二上山は夕日の沈む西方浄土の地。仏教が盛んになるにつれてこうした西の日が沈む地が憧れの浄土として崇められるようになる。

 その二上山の麓に位置する當麻の里の代表的な寺が當麻寺である事は言うまでもない。中将姫の伝説、當麻曼荼羅、真言宗、浄土宗共立の寺である。5月には當麻お練りが繰り広げられ、数多くの仏様が浄土からお出ましになる。桜の季節は護念院、西南院の枝垂れ桜が二塔を背景に咲き誇る。詳しくは、當麻寺の謎、桜の季節の當麻の里について書いた下記のブログをお読みいただきたい。

 2014年9月26日「當麻寺の謎 豊穣の時を迎えた當麻の里散策」

 2016年4月5日「大和路桜紀行(2)春雨にけぶる當麻の里に桜花を愛でる」

 今回は、その當麻寺からゆったり徒歩で15分ほど。集落を抜けたところに静かに佇むもう一つの古刹、石光寺(せっこうじ)を訪ねた。正確に言うと今回の散策では、竹内街道の抜け、まず石光寺を参詣。そして當麻寺へ向かった。いつもとは逆コースをたどったことになる。石光寺を知る人はよほどの大和路通だろう。石光寺は天智天皇の治世(670年頃)、天皇勅願により役の小角が開山、弥勒如来を本尊としてお祀りしたのが始まりだと言われている。浄土宗の寺で當麻寺同様、中将姫ゆかりの寺でもある。中将姫は聖武天皇の御代(750年頃)に蓮糸曼荼羅を織り、この寺の池で洗い五色に染めたと言われている。そうした寺の創建由来も興味深いが、今では寒牡丹で有名な「花の御寺」として人気がある。

 桜や新緑、稲穂の波、紅葉に彩られる大和路の華やぎが終わると、やがて冬枯れの侘しい季節となる。稲の刈り取りがとっくに終わった當麻の里の田んぼと二上山のコントラストもそれはそれで良い。すべての華やぎが去ったこの風景。色即是空空即是の世界なのだが、どこかに彩りが欲しくなる。人間の煩悩はやはりとどまるところを知らない。その中で冬空に彩りを添えるのが石光寺の寒牡丹である。有名な長谷寺の牡丹や当麻寺の西南院、護念院の牡丹は春牡丹。4月中旬から五月中旬に華麗に咲き誇る。しかし、寒牡丹は11月下旬から1月下旬頃の寒い季節に盛りを迎える。一般に春牡丹は温室などで開花時期を調節しながら育てるのに対し、寒牡丹は自然のまま自力で咲くのを待つのだそうだ。したがってすべての株が一斉に咲き揃うのではなく、一輪一輪がポツポツと咲く。また株によっては咲かない年があったり、まさに孤高の力強さがある。時期になると色とりどりに咲き乱れる春牡丹のような壮観さなないが、寒い季節にしっかりと咲くオンリーワンの美しさがある。この季節、寒牡丹で名高い石光寺は観光客で賑わうわけでもなく、寒牡丹も誰のために咲くと言うわけでもなく、密やかではあるが気品をたたえながら一輪一輪が二上山を背にその美しさを誇っていた。

 毎回ブログに書くが、當麻の里散策のトリを飾るのはいつも「中将餅」。當麻寺駅前にある老舗の茶屋のあんころ餅がうまい。注文を受けてから白い割烹着のお姉さんが餡子をよもぎ餅に乗せて出してくれる、ここでしか食すことができないローカルフード。ただし、夕方になると売り切れ御免になることが多いので、本当は参詣前に手に入れて、散策途中の道すがらに食すのが良い。


竹内街道
菅原神社からの展望

竹内街道
大和棟の古民家が軒を連ねる

松尾芭蕉ゆかりの綿弓塚の古民家
昔は酒造業だった


當麻寺遠望

大和路といえば柿

葛城山を背景にした當麻の里

刈り入れも終わり冬枯れの景色
これも大和路の風景だ

  石光寺の寒牡丹コレクション











 さて石光寺を後にして、當麻寺へ向かうとしよう。

石光寺境内から二上山が覗く

石光寺山門


石光寺から當麻寺へ続く道すがらお地蔵様が。

大和棟の民家を見ながら當麻寺へ


當麻寺黒門にたどり着く
夕日刺す頃...

中将姫像

古當麻寺時代の石灯籠
当時はこちらが南に面する寺の正面であった

當麻曼荼羅がご本尊の曼荼羅堂
浄土宗両立の寺となってから増築されたのだが、現在では「本堂」になっている

散策に疲れたら當麻駅前の「中将餅」
注文を受けてから餡子をまぶす草餅は忘れられない味。

二上山
入江調の「二上山残照」にはまだ時間がある。


 (撮影機材:Leica SL + Vario Elmarit-SL 24-90/2.8-4 ASPH, APO Vario Elmar-T 55-135/3.5-4.5 ASPH)